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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐

挨拶をして部屋を出ようとしたお彩をふと喜六郎が呼び止めた。
「お彩ちゃん、口の堅いお前のことだから心配には及ばねえと思うが、この件はしばらく内密にしておいてくれるかい」
「はい」と、お彩は応えてから、元どおり障子を閉めた。
喜六郎は金を盗った下手人が誰であるか知っているのではないだろうか。またしても、疑念がお彩の中をちらりとかすめた。
「花がすみ」を出た時、既に夜はかなり更けていた。銀の眉月が煌々と空に輝き、地上を明るく照らしている。春たけなわの夜気はしっとりと潤んで、ほのかな花の香りを孕んでいた。
だが、お彩の心は何とも晴れなかった。
父伊八と二年ぶりに漸く心を通わせることができた歓びも束の間、お彩には父と打ち解けて話をした今日の昼下がりのひとときがもう随分と遠い昔のように思えてならなかった。
「お彩ちゃん、口の堅いお前のことだから心配には及ばねえと思うが、この件はしばらく内密にしておいてくれるかい」
「はい」と、お彩は応えてから、元どおり障子を閉めた。
喜六郎は金を盗った下手人が誰であるか知っているのではないだろうか。またしても、疑念がお彩の中をちらりとかすめた。
「花がすみ」を出た時、既に夜はかなり更けていた。銀の眉月が煌々と空に輝き、地上を明るく照らしている。春たけなわの夜気はしっとりと潤んで、ほのかな花の香りを孕んでいた。
だが、お彩の心は何とも晴れなかった。
父伊八と二年ぶりに漸く心を通わせることができた歓びも束の間、お彩には父と打ち解けて話をした今日の昼下がりのひとときがもう随分と遠い昔のように思えてならなかった。

