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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

最奥部の奥ノ院の傍らには俗に「大池」と呼び倣わされる巨大な池があり、そのほとりに植わった数本の桜が一斉に花開いた様は圧巻ともいえた。ここは江戸の桜名所ともされ、春の盛りは上野の寛永寺などと共に花見の客でごった返すほどの人手になる。
もっとも、花の時季も終わり、新緑眩しい今はこの辺りまで脚を運ぶ人は滅多とおらず、大池の周囲は森閑としていた。池のほとりには桜の他に楓の樹もあり、随明寺は花の寺としてだけではなく、紅葉の美しい寺としても名高い。皐月の半ばを過ぎた現在、楓はみずみずしい若葉の色を初夏の陽光に眩しく煌めかせていた。
「それにしても、相変わらずの賑わいだったなあ」
先刻見たばかりの風車の鮮やかさが一瞬瞼から消え、お彩は現実に引き戻された。ハッと我に返れば、隣を歩く伊勢次が屈託ない笑みを浮かべている。
もっとも、花の時季も終わり、新緑眩しい今はこの辺りまで脚を運ぶ人は滅多とおらず、大池の周囲は森閑としていた。池のほとりには桜の他に楓の樹もあり、随明寺は花の寺としてだけではなく、紅葉の美しい寺としても名高い。皐月の半ばを過ぎた現在、楓はみずみずしい若葉の色を初夏の陽光に眩しく煌めかせていた。
「それにしても、相変わらずの賑わいだったなあ」
先刻見たばかりの風車の鮮やかさが一瞬瞼から消え、お彩は現実に引き戻された。ハッと我に返れば、隣を歩く伊勢次が屈託ない笑みを浮かべている。

