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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

だが、名前も知らないその男との間に何かしらの感情の通い合いがあることを、お彩は気付いていた。自分が男に惹かれていることは最早否定しようもない事実であったけれど、果たして男もまた自分と同じような気持ちであるかは判らない。
何しろ、相手はどう見てもお彩よりはひと回りは年上―二十七、八には見えた。男がいかなる理由でお彩の前に姿を見せるのかも判りかねた。男は風のように気紛れに現れたかと思うと、また、ふっとかき消すようにいなくなる。お彩が心に葛藤を抱えているときに限って現れるくせに、必要以上に近付こうとはせず、わざと二人の間に一定の距離を保っている。すべてが謎に包まれた男なのだ。
ただ一つだけ判っているのは、お彩がその男の孤独を宿した瞳に強く魅せられてしまっていることだけだ。この男に惹かれ始めて、お彩は漸く己れの父への気持ちが「恋」ではないと知り得た。
何しろ、相手はどう見てもお彩よりはひと回りは年上―二十七、八には見えた。男がいかなる理由でお彩の前に姿を見せるのかも判りかねた。男は風のように気紛れに現れたかと思うと、また、ふっとかき消すようにいなくなる。お彩が心に葛藤を抱えているときに限って現れるくせに、必要以上に近付こうとはせず、わざと二人の間に一定の距離を保っている。すべてが謎に包まれた男なのだ。
ただ一つだけ判っているのは、お彩がその男の孤独を宿した瞳に強く魅せられてしまっていることだけだ。この男に惹かれ始めて、お彩は漸く己れの父への気持ちが「恋」ではないと知り得た。

