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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

同じ胸苦しさでも、父への想いと男へのものでは全然違う。父への思慕は何か苛立たしさや焦りのようなものがあり、その気持ちが父への反抗という形になって現れた。
男への恋情はあまりにも深く烈しいがゆえにかえって表面には出てこない。お彩の奥底で静かに蒼白く燃える焔のようなものであった。父のときのように自分の気持ちを相手にぶつけようとはしない代わりに、お彩のまなざしには思いつめたような光があった。その男ともひと月余り前に逢ったきりで、お彩は男の面影を宝物のように抱いて過ごす日々が続いていた。
今日、お彩は馴染み客の伊勢次に誘われ、随明寺の月に一度の縁日市に詣でた。「花がすみ」の主人喜六郎には夕刻までは休みを貰っている。思いかけず伊勢次から誘いを受けた時、お彩は一度は丁重に断った。店の仕事を休んでまでわざわざ縁日に出かけるほどのこともないと考えたからだが、お彩は伊勢次が自分にほのかな好意を寄せていることには全く気付いてはいない。
男への恋情はあまりにも深く烈しいがゆえにかえって表面には出てこない。お彩の奥底で静かに蒼白く燃える焔のようなものであった。父のときのように自分の気持ちを相手にぶつけようとはしない代わりに、お彩のまなざしには思いつめたような光があった。その男ともひと月余り前に逢ったきりで、お彩は男の面影を宝物のように抱いて過ごす日々が続いていた。
今日、お彩は馴染み客の伊勢次に誘われ、随明寺の月に一度の縁日市に詣でた。「花がすみ」の主人喜六郎には夕刻までは休みを貰っている。思いかけず伊勢次から誘いを受けた時、お彩は一度は丁重に断った。店の仕事を休んでまでわざわざ縁日に出かけるほどのこともないと考えたからだが、お彩は伊勢次が自分にほのかな好意を寄せていることには全く気付いてはいない。

