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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

むろん、断られた伊勢次はいたく落胆したけれど、お彩が伊勢次の誘いを男からのものだとさえ認識していない―単なる常連からのお声がかり、暇つぶしの類だとしか考えてはいないことを知れば、更に消沈することは間違いなかった。常識からえれば、二十歳の若い男が十七の娘を縁日に誘うのに色恋沙汰だと考えないはずはないが、しっかり者で通るお彩も男女のこととなると、とんと無頓着というか世間知らずであった。伊勢次は気の好い若者だったから、お彩がどうやら自分を男としては見ていないことも薄々察しながらも、無理にお彩に言い寄ろうとしたりはしない。
が、二人のやり取りを少し離れた場所から聞いていた喜六郎が気を利かせて、お彩を半ば強引に市へとゆかせたのである。喜六郎もまた極めて人の好い男だが、流石に五十近くともなると、人の心の機微にも少しは通じている。伊勢次の態度からお彩に惚れているのは明らかで、お彩がまた伊勢次の気持ちにとんと気付いてはいないのが哀れになったのである。
が、二人のやり取りを少し離れた場所から聞いていた喜六郎が気を利かせて、お彩を半ば強引に市へとゆかせたのである。喜六郎もまた極めて人の好い男だが、流石に五十近くともなると、人の心の機微にも少しは通じている。伊勢次の態度からお彩に惚れているのは明らかで、お彩がまた伊勢次の気持ちにとんと気付いてはいないのが哀れになったのである。

