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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

小巻は今は産み月に入り、そろそろ産気づいてもおかしくない時期に入っている。そのため、喜六郎もお彩も必要以上に小巻に逆らって気を立たせるようなことは控えており、常々、喜六郎はお彩に対してそのことを済まなく思っていた。そのせいもあって、伊勢次と二人で随明寺の市に出してやれば気散じにもなろうという心遣いでもあった。喜六郎から強く勧められては、お彩も断る理由もなく、伊勢次と縁日に出かけていたのである。
「本当にたくさんの人だったわねえ。それに楓もきれいだったし」
お彩は微笑んで頷いた。二人は少し脚を伸ばして奧の大池まで行った。花の時季も終わり人気もないのがかえって落ち着いていて、緑の楓が清々しかった。
お彩は小脇に桜餅の包みを大切に抱えていた。随明寺の門前の茶店でしか売られていないこの桜餅は、店の老婆が一人で作っている。
「本当にたくさんの人だったわねえ。それに楓もきれいだったし」
お彩は微笑んで頷いた。二人は少し脚を伸ばして奧の大池まで行った。花の時季も終わり人気もないのがかえって落ち着いていて、緑の楓が清々しかった。
お彩は小脇に桜餅の包みを大切に抱えていた。随明寺の門前の茶店でしか売られていないこの桜餅は、店の老婆が一人で作っている。

