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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐

お彩は小さな吐息を洩らし、横たわったまま薄汚れた天井の汚点をぼんやりと眺めた。
―おとっつぁん。
心細い時、やはり真っ先に瞼に浮かぶのは父の顔であった。子どもの頃、お彩はよく風邪を引いて熱を出した。その度に、父が仕事もそっちのけで枕許に座り看病をしてくれた。濡れた手拭いをこまめに替え、汗をかけばすぐに清潔な手拭いでぬぐってくれた。
病気のときは誰でも心細いものだが、子どもの頃は特に夜が怖かった。それは熱が夜になると決まって高くなるということもあったが、母は夜は仕事で留守にしていたから、代わりに伊八がお彩の傍に付いていた。うなされて怖い夢を見ている最中、ふと目ざめた時、いつも間近に父の笑顔があった。それだけで、どれだけ安心しただろう。淡い闇の中で温かな笑顔を見るだけで、自分は一人ぼっちではないんだと子ども心に安心し、また眠りに落ちていった。
―おとっつぁん。
心細い時、やはり真っ先に瞼に浮かぶのは父の顔であった。子どもの頃、お彩はよく風邪を引いて熱を出した。その度に、父が仕事もそっちのけで枕許に座り看病をしてくれた。濡れた手拭いをこまめに替え、汗をかけばすぐに清潔な手拭いでぬぐってくれた。
病気のときは誰でも心細いものだが、子どもの頃は特に夜が怖かった。それは熱が夜になると決まって高くなるということもあったが、母は夜は仕事で留守にしていたから、代わりに伊八がお彩の傍に付いていた。うなされて怖い夢を見ている最中、ふと目ざめた時、いつも間近に父の笑顔があった。それだけで、どれだけ安心しただろう。淡い闇の中で温かな笑顔を見るだけで、自分は一人ぼっちではないんだと子ども心に安心し、また眠りに落ちていった。

