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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐

「どうした、また哀しそうな顔をしているじゃないか」
待ち焦がれた男の声に、お彩は弾かれたように顔を上げた。期待したとおり、夕陽を背に負うようにして、あの男が佇んでいた。
男の端整な貌を見た瞬間、お彩の中で張り詰めていたものが音を立てて切れた。お彩の眼に涙が溢れ、すべらかな頬をつたい落ちる。
「お前さんは本当に泣き虫だねえ。確か桜の時分にこで逢ったときも泣いていた」
男のどこかからかうような物言いに、お彩は救われる。心の琴線に直接触れてくるような深い声―、この男は声でさえ人を魅了する。
ふいに強い力で引き寄せられ、お彩は身を固くした。が、男の逞しい手がなだめるように背を軽く叩くと、次第に緊張も解けていった。お彩は額を彼の胸に押しつけ、穏やかな鼓動に耳を傾けた。
「ここに来れば、あなたに逢えるのではないかと思っていました」
待ち焦がれた男の声に、お彩は弾かれたように顔を上げた。期待したとおり、夕陽を背に負うようにして、あの男が佇んでいた。
男の端整な貌を見た瞬間、お彩の中で張り詰めていたものが音を立てて切れた。お彩の眼に涙が溢れ、すべらかな頬をつたい落ちる。
「お前さんは本当に泣き虫だねえ。確か桜の時分にこで逢ったときも泣いていた」
男のどこかからかうような物言いに、お彩は救われる。心の琴線に直接触れてくるような深い声―、この男は声でさえ人を魅了する。
ふいに強い力で引き寄せられ、お彩は身を固くした。が、男の逞しい手がなだめるように背を軽く叩くと、次第に緊張も解けていった。お彩は額を彼の胸に押しつけ、穏やかな鼓動に耳を傾けた。
「ここに来れば、あなたに逢えるのではないかと思っていました」

