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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一

お彩は江戸の町外れにある一膳飯屋「花がすみ」に通いで奉公している。「花がすみ」は名前だけはたいそうだが、狭い店内には小机が幾つかと腰掛け代わりの空樽があるだけの小さな飯屋である。しかし、主の喜六郎の上方仕込みの料理の腕と看板娘のお彩の愛敬で連日、大勢の客で賑わいを見せている。
男は、その「花がすみ」の客の一人だった。お彩が「花がすみ」に勤め始めてまなしに初めて姿を見せて以来、月に一、二度ふらりと思い出したように訪れ、奧の席で半刻くらいかけてゆっくりと酒を呑む。特に料理を頼むわけでもなく、突き出しの小鉢をつつきながら、手酌で静かに酒を呑むのが常であった。
そんな男のことがお彩は頭から離れなくなっていったのだ。
男は、その「花がすみ」の客の一人だった。お彩が「花がすみ」に勤め始めてまなしに初めて姿を見せて以来、月に一、二度ふらりと思い出したように訪れ、奧の席で半刻くらいかけてゆっくりと酒を呑む。特に料理を頼むわけでもなく、突き出しの小鉢をつつきながら、手酌で静かに酒を呑むのが常であった。
そんな男のことがお彩は頭から離れなくなっていったのだ。

