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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一

本当は時々、陽太に逢いたくて、あの深いまなざしや魅惑的な声を傍で感じたくてたまらない衝動に駆られるのだけれど。
お彩はふと足許にある小さな生きものに気付いて、しゃがみ込んだ。「花がすみ」の店の前の人気もない路の端に、ささやかに根を張っているそれは露草だった。夏の夜空を集めたような蒼色が清々しくて、眼に滲み入るようだ。お彩は手桶にまだほんの少しだけ残っている水をすべて、その可憐な花にかけてやった。
たとえ見る人がいなくても、その場所で凛として前を向いて自分なりの花を咲かせているその姿に、たまらないいじらしさを感じる。
―小さくても良い、一生かかっても良いから、自分だけの花を心に咲かせるんだよ。
それが母お絹のありし日の口癖であった。どうしようもないくらいお人好しで、困っている人を見ると自分の身の危険も顧みず、奔走するような女(ひと)であった。
お彩はふと足許にある小さな生きものに気付いて、しゃがみ込んだ。「花がすみ」の店の前の人気もない路の端に、ささやかに根を張っているそれは露草だった。夏の夜空を集めたような蒼色が清々しくて、眼に滲み入るようだ。お彩は手桶にまだほんの少しだけ残っている水をすべて、その可憐な花にかけてやった。
たとえ見る人がいなくても、その場所で凛として前を向いて自分なりの花を咲かせているその姿に、たまらないいじらしさを感じる。
―小さくても良い、一生かかっても良いから、自分だけの花を心に咲かせるんだよ。
それが母お絹のありし日の口癖であった。どうしようもないくらいお人好しで、困っている人を見ると自分の身の危険も顧みず、奔走するような女(ひと)であった。

