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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

お彩は心の中で苦笑いした。お彩の母お絹はかつて夜鳴き蕎麦屋をしていた。今でも夕方、慌ただしく夕飯を食べた後、重たげな屋台を引いて商いに出てゆく母の後ろ姿を鮮明に憶えている。お絹はいつも我が事より他人ばかりを案ずる性分だった。根っからのお人好しというのか、そこにどんな危険が待ち受けているかなぞおよそ考えもせず、他人のために奔走ばかりしていた。
そんな母を父伊八はいつも呆れ顔で
―お前はつくづく厄介な性分だな。
と笑って見ていた。しかし、口とは裏腹に、父はそんな母に心底惚れ、いつも母を温かなまなざしで見つめていたものだ。
恐らくはお彩もまた、母譲りのお節介の血を受け継いでいるのだろう。見た目も在りし日の母を彷彿とさせるというお彩は、やはりその気性まで似たのかもしれない。
そんな母を父伊八はいつも呆れ顔で
―お前はつくづく厄介な性分だな。
と笑って見ていた。しかし、口とは裏腹に、父はそんな母に心底惚れ、いつも母を温かなまなざしで見つめていたものだ。
恐らくはお彩もまた、母譲りのお節介の血を受け継いでいるのだろう。見た目も在りし日の母を彷彿とさせるというお彩は、やはりその気性まで似たのかもしれない。

