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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

贅沢な料理には慣れっこになっているからだ。そんな客をも唸らせるほどなのだから、喜六郎の作る料理の味の確かさも窺い知れるというものだろう。
お彩は「花がすみ」から遠くない粗末な裏店に一人暮らしで、そこから通い奉公している。お彩がこの店で仲居として働き始めて、既に二年が過ぎたが、お彩の美しさと愛想の良さ、それに喜六郎の腕の確かさもあって、「花がすみ」は繁盛する一方であった。中には料理よりもお彩目当てに通ってくる若い者もいて、お彩の父親代わりをもって任じる喜六郎は気が気ではない。お彩の父親は江戸でも評判の腕の良い飾り職の伊八だ。が、お彩は二年前に、家を出た。以後、一年もの間にわたって父とは疎遠だったが、陽太という男の出現によって、父とは和解できた。
お彩は「花がすみ」から遠くない粗末な裏店に一人暮らしで、そこから通い奉公している。お彩がこの店で仲居として働き始めて、既に二年が過ぎたが、お彩の美しさと愛想の良さ、それに喜六郎の腕の確かさもあって、「花がすみ」は繁盛する一方であった。中には料理よりもお彩目当てに通ってくる若い者もいて、お彩の父親代わりをもって任じる喜六郎は気が気ではない。お彩の父親は江戸でも評判の腕の良い飾り職の伊八だ。が、お彩は二年前に、家を出た。以後、一年もの間にわたって父とは疎遠だったが、陽太という男の出現によって、父とは和解できた。

