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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐

伊勢次の苛立ちなぞ、陽太の深い怒りに比べれば、たいしたことはないように思える。陽太の怒りは、彼が静かであればあるほど烈しいのだ。この時、お彩は陽太が本当に怒れば、伊勢次のように表に出すのではなくて、逆により冷静になってゆくことを知った。
その姿はさながら、無気味に静まり返った湖面を思わせる。
「伊勢次さん、止めて」
陽太をこれ以上怒らせてはならない。お彩は伊勢次に向かって、懸命な面持ちで言った。
―あの男は危険だ。
いつか伊勢次が囁いた台詞がふと、お彩の脳裡をかすめた。
だが、激高する伊勢次には、お彩の必死の叫びなぞおよそ届かなかった。
「お前にお彩ちゃんは渡さねえ」
伊勢次の唇からは血の糸が細く滴り落ちている。転んだ拍子に切ったらしい。
その姿はさながら、無気味に静まり返った湖面を思わせる。
「伊勢次さん、止めて」
陽太をこれ以上怒らせてはならない。お彩は伊勢次に向かって、懸命な面持ちで言った。
―あの男は危険だ。
いつか伊勢次が囁いた台詞がふと、お彩の脳裡をかすめた。
だが、激高する伊勢次には、お彩の必死の叫びなぞおよそ届かなかった。
「お前にお彩ちゃんは渡さねえ」
伊勢次の唇からは血の糸が細く滴り落ちている。転んだ拍子に切ったらしい。

