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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第16章 第七話 【雪花】 其の壱

父は江戸でも指折りの職人であり、その稼ぎもなかなか良い。小間物問屋に決まって品を納めるだけでなく、大店の内儀や旗本の内室といった常得意も持っている。が、父の許を離れ、一膳飯屋「花がすみ」で通い奉公しているお彩は我が身が暮らしてゆくのがやっとで、到底新品の半纏を買うゆとりはない。ゆえに、古着屋を覗きにいったのである。
「ゆめや」という名の小さな古着屋の女主人はけして愛想が良いというのではなかったけれど、誰に対しても気さくな態度であり、お彩はいつしか亡くなった母お絹をその姿に重ねて見ているような節があった。母は生きていれば、もう三十五であり、「ゆめや」の女主人はそれよりはかなり若かったけれど、その落ち着いた物腰と優しげなまなざしに、十四で母を喪ったお彩はいつ母を見てしまうのである。
「ゆめや」という名の小さな古着屋の女主人はけして愛想が良いというのではなかったけれど、誰に対しても気さくな態度であり、お彩はいつしか亡くなった母お絹をその姿に重ねて見ているような節があった。母は生きていれば、もう三十五であり、「ゆめや」の女主人はそれよりはかなり若かったけれど、その落ち着いた物腰と優しげなまなざしに、十四で母を喪ったお彩はいつ母を見てしまうのである。

