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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第3章 第一話-其の参-

実の父を、血を分けた父親を愛してしまったのだから。もし、母が生きていれば、到底母に告げられたものではない。いや、母さえ生きていれば、こんな邪悪な想いを知ることもなしに平穏に親子三人の時が流れていったのだろうか。
いや―、と、お彩は思う。これまでは母さえ元気であれば、こんなことで苦しまずに済んだのだと無理に思い込もうとしてきたが、お彩には既に判っているのだ。たとえ母が生きていたとしても、いつの日かお彩は必ずや伊八への思慕に目覚めたに違いない。母が元気でいれば、こんなことにはならなかったと考えてしまうのは、それは「逃げ」というものだろう。
霜月もそろそろ終わろうかという季節の空は晩秋というよりは、はや冬と呼ぶにふさわしい。薄い蒼がひろがった空に刷毛で描いたような白い雲がひとすじ浮かんでいた。お彩はしばし眼を瞑ったまま亡き母に黙祷した。
いや―、と、お彩は思う。これまでは母さえ元気であれば、こんなことで苦しまずに済んだのだと無理に思い込もうとしてきたが、お彩には既に判っているのだ。たとえ母が生きていたとしても、いつの日かお彩は必ずや伊八への思慕に目覚めたに違いない。母が元気でいれば、こんなことにはならなかったと考えてしまうのは、それは「逃げ」というものだろう。
霜月もそろそろ終わろうかという季節の空は晩秋というよりは、はや冬と呼ぶにふさわしい。薄い蒼がひろがった空に刷毛で描いたような白い雲がひとすじ浮かんでいた。お彩はしばし眼を瞑ったまま亡き母に黙祷した。

