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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

伊勢次は和泉橋を渡ろうとはせず、そのたもとで脚を止めた。二月も終わろうとしている、明るい陽差しの午後であった。長い冬をほどなく終え、芽吹きの季(とき)が近づいているこの時期、川端に一本だけ植わった桜の樹の葉の緑が日毎に濃くなりつつある。
伊勢次は名を知る者とておらぬ川をじっと見つめた。
「頼むから、そんな風に怯えた眼で俺を見ねえでくんな」
川面を眺めていた伊勢次が唐突に振り向いた。
「先からお彩ちゃんを見てたら、まるで俺に今にも取って喰われるんじゃねえかと怖れてるように見えちまう」
「私、そんなつもりじゃ―」
お彩が慌ててかぶりを振った。
伊勢次は名を知る者とておらぬ川をじっと見つめた。
「頼むから、そんな風に怯えた眼で俺を見ねえでくんな」
川面を眺めていた伊勢次が唐突に振り向いた。
「先からお彩ちゃんを見てたら、まるで俺に今にも取って喰われるんじゃねえかと怖れてるように見えちまう」
「私、そんなつもりじゃ―」
お彩が慌ててかぶりを振った。

