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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

その歓びの絶頂の最中、伊勢次は身体を重ねた後で、ひっそりと泣くお彩を見た。そのことが伊勢次の心を決定的に打ち砕いたのだ―。お彩は伊勢次に泣いているところを目撃されていることまでは知らない。だが、伊勢次に抱かれながら別れた良人京屋市兵衛を想っていた―恐らくは、そのことが伊勢次の恋心を踏みにじってしまったのだろうと理解している。
初めて肌を合わせてから半月後、伊勢次は自ら入水自殺を図り、二度と帰らぬ人となった。
それでも、池に入る前夜、伊勢次はお彩に微笑んで言ったのだ。
―俺は幸せだったぜ。短い間でも、お彩ちゃんと夫婦として暮らせて、俺がこれまで二十五年生きてきた中では最高に幸せなときだったよ。
初めて肌を合わせてから半月後、伊勢次は自ら入水自殺を図り、二度と帰らぬ人となった。
それでも、池に入る前夜、伊勢次はお彩に微笑んで言ったのだ。
―俺は幸せだったぜ。短い間でも、お彩ちゃんと夫婦として暮らせて、俺がこれまで二十五年生きてきた中では最高に幸せなときだったよ。

