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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
 が、それでは、お彩は本当に卑怯者になる。ただ楽になりたいがために死ぬことは、お彩にとって許されることではない。
 それに、お彩の胎内には、ほどなくこの世に生まれ出でようとしている新しい生命が宿っている。伊勢次は、その子を己れの子として引き受けようとしていた。子どもの誕生を何より心待ちにしていた。お彩は結局、死よりも生を選んだ。伊勢次の代わりに自分がせめて彼が大切にしようとしていたものたちを守ろうと決めたのだ。
 お彩が九か月間住んだ村を離れたのは、つい昨日のことであった。去年の秋に生まれた赤子を連れて、実に九ヵ月ぶりに懐かしい故郷に帰り着いたのである。去年の十月に生まれたのは女児であった。
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