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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

美杷という名前に、お彩は、あの夕陽の色を集めた実のように美しくなれ、そして、伊勢次のように惜しみなく他者に愛を注ぐことのできる優しさをとの願いを託した。また、「美杷」の読みは「びわ」にも似ている。初子の名には、お彩の伊勢次への尽きせぬ想いが込められていた。
お彩は腰高障子の前で、小さく息を吸い込んだ。既に昨日、江戸に着いたその足で小石川養生所を訪れ、おきわが半月前に養生所を出たことは聞いている。一体、どんな顔をして、おきわに逢えば良いのか。ありきたりな言い方にはなってしまうが、合わせる顔がないというのは、こういうことを言うのだろう。
だが、ここで逃げ帰るわけにはゆかない。たとえ、どれだけ詰られたとしても、自分は、それだけのことをしてしまったのだから。
お彩は腰高障子の前で、小さく息を吸い込んだ。既に昨日、江戸に着いたその足で小石川養生所を訪れ、おきわが半月前に養生所を出たことは聞いている。一体、どんな顔をして、おきわに逢えば良いのか。ありきたりな言い方にはなってしまうが、合わせる顔がないというのは、こういうことを言うのだろう。
だが、ここで逃げ帰るわけにはゆかない。たとえ、どれだけ詰られたとしても、自分は、それだけのことをしてしまったのだから。

