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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

如月初めの厳寒の最中のことである。所々破れた障子はきっちりと閉まっている。お彩はその障子戸に手をかけると、思い切って引いた。軋んだ音が終わるか終らない中(うち)に、中からしわがれ声が聞こえた。
「誰だえ、おさきさんかい」
お彩は返す言葉もなく、その場に佇んでいる。
「伊勢次かえ―」
ややあって、おきわが再び呼んだ。久しぶりに耳にする懐かしい名に、お彩は心が震えた。
お彩は唇を噛みしめると、ひと息に言った。
「私、伊勢次さんの知り合いのお彩といいます」
「誰だえ、おさきさんかい」
お彩は返す言葉もなく、その場に佇んでいる。
「伊勢次かえ―」
ややあって、おきわが再び呼んだ。久しぶりに耳にする懐かしい名に、お彩は心が震えた。
お彩は唇を噛みしめると、ひと息に言った。
「私、伊勢次さんの知り合いのお彩といいます」

