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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

狭い四畳半の家は、かつてお彩が伊勢次と共にふた月もの間暮らした場所でもある。その見憶えのある部屋の擦り切れた畳に粗末な夜具を敷いて、一人の老女が横たわっていた。いや、おきわはまだ四十路の半ばだというから、実際には老女という呼び方はふさわしくない。が、眼前に見るおきわは、痛々しいほどやせ衰えていて、髪も真っ白になっていた。それが顔色だけは紙のように血の気がなく透き通っているのは病気のせいに違いない。
おきわは夜具の上に身を起し、お彩を茫然と見つめていた。それでも、倅の名前を耳にし、今しもお彩の後ろから伊勢次がひょっこり姿を現すのではないかというように、しきりに背後を窺っている。もしや待ち焦がれた倅が帰ってきたのかと、生気を失った双眸が一瞬の希望と歓びに輝いていた。
おきわは夜具の上に身を起し、お彩を茫然と見つめていた。それでも、倅の名前を耳にし、今しもお彩の後ろから伊勢次がひょっこり姿を現すのではないかというように、しきりに背後を窺っている。もしや待ち焦がれた倅が帰ってきたのかと、生気を失った双眸が一瞬の希望と歓びに輝いていた。

