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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

なのに、今日はどうしたというのか、母のことを口にする父を温かな眼で見ることができる。お彩は、そんな自分の変わり様が自分で嬉しかった。
「随分と待ったんじゃねえか」
伊八が気遣わしげに問うのに、お彩は首を振った。
「私も今さっき来たばかりなのよ。丁度良かった」
伊八の顔が更に歪んだが、今度は先刻とは異なり、泣き笑いの表情が浮かんでいた。
「父ちゃんに気なんぞ遣うんじゃねえよ」
お彩自身は気付いてはいなかったけれど、お彩の額にはこの時、うっすらと汗が浮かんでいた。伊八は目ざとく見ていたのである。
その汗を見た伊八は、娘が長屋の前を何往復もしたことをひとめで見抜いていた。
「さ、中に入れ。確か随明寺の桜餅があったと思うから、今、茶でも淹れてやる」
「随分と待ったんじゃねえか」
伊八が気遣わしげに問うのに、お彩は首を振った。
「私も今さっき来たばかりなのよ。丁度良かった」
伊八の顔が更に歪んだが、今度は先刻とは異なり、泣き笑いの表情が浮かんでいた。
「父ちゃんに気なんぞ遣うんじゃねえよ」
お彩自身は気付いてはいなかったけれど、お彩の額にはこの時、うっすらと汗が浮かんでいた。伊八は目ざとく見ていたのである。
その汗を見た伊八は、娘が長屋の前を何往復もしたことをひとめで見抜いていた。
「さ、中に入れ。確か随明寺の桜餅があったと思うから、今、茶でも淹れてやる」

