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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ

    ※    ※


「おはようございます」

 次の朝に会った蒼空は、それまでと変わらずに俺に笑顔を向けていた。

「あ、うん……おはよう」

 だが、それに対する俺の様子は、明らかに二日前とは違っていたのだろう。それを蒼空に感じさせぬよう、表層を飾ることさえできてはいない。

「さあ、行きましょう」

 そう促され、俺たちは学校に向かう。

 蒼空の存在を傍らに感じながら――それは、嬉しいことである筈なのに――今は、そのことが辛い。蒼空に不安を与えてはいけない。そう思えば思う程に、彼女にかける言葉がない。

 何か言えば自分が不誠実な人間になってしまう気がしていた。

 俺は誠二さんの話を聞いてしまっている。それは、沢渡さんから聞いた話とは違うもの。そして、違っているのは事実ではなく、考える方法だったのだ――。

「怜未のこと――」

 蒼空が、その名を口にするのを聞き、俺はギクリとしている。

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