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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ

    ※    ※


 昨夜の喫茶店にて――その後の誠二さんの話は衝撃的なものになろうとしていた。

「どういう意味ですか?」

 おとぎ話――その言葉の真意を、俺は誠二さんに訊ねていた。

「わからないのかい? 非現実的だと言っているんだよ」

「貴方は、彼女たちの話を信じていないんですか? 身内の貴方が――」

「ああ、そうさ――」

 誠二さんは蔑むように俺を見てから――

「だが、信じているキミよりも、遥かに蒼空のことを案じているよ。ずっと現実的にね」

「現実って! だけど、彼女たちは――」

「ストップ!」

「……?」

「まず、その『彼女たち』という言い方をやめてくれ。何故なら、怜未はもう死んでいるのだから……」

 淡々と喋る誠二さんに、俺は怒りが込み上げていた。

「なんだとっ!」

 立ち上がり手を伸ばすと、俺は誠二さんの胸ぐらを掴んだ。

 しかし、誠二さんは平静を保ったままに、静かにこう呟くのだった。


「解離性同一性障害」


「えっ?」

「ピンとこないみたいだね。では――」

 と、誠二さんは俺の手を払いつつ、こう言い替える。


「多重人格障害――と言えばどうかな?」

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