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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ

 それを聞き、俺は力をなくしたようにイスに腰を落とす。

「多重……人格?」

「僕は医者だから、最初に蒼空の異変を聞いた時その可能性を考えた。もっとも精神科医を志したのは、その後だけどね……」

「じゃあ……怜未……は?」

「蒼空が自分の中に宿した、もう一つの人格。否、蒼空が無意識の内に作りだした、もう一人の怜未と言うべきかな」

「――!」


 百パーセント言い切るものではないとした上で、誠二さんは説明した。

 解離性同一性障害――主に心的外傷(トラウマ)やストレスを要因として、本人から切り離された別人格が現れる状態――。

 多重人格障害とは古い表現とのことである。症状は患者により様々だが、別人格が現れている時の記憶は主人格にはなく、別人格はその記憶を自分のものとして成長させてゆくものらしい――。

 誠二さんは他にも詳しく話していたが、俺が理解するには難しい話が多かった。それでも必死に耳を傾けていると――必ずしも蒼空と怜未のケースに、当てはまらないと思える点もあった。

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