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その恋を残して
第6章 怜未は、ここにいるよ

「まあ……ほっとけよ」

 俺は相手にせずに、そう言った。田口の奴もただ面白がって聞いている訳ではないのだと思う。しかし、今の俺には相手をする心のゆとりがない。

「そうか。悪かったな」

 だから、田口がそう言って前を向いてしまった時には、こちらこそ悪いことをした気分であった。

 たぶん、これが普通の恋愛であったのならば、俺だって相談したりのろけたりしていたのだろうけども……。

 普通――?

 当たり前のように使った、その言葉が俺には引っかかっていた。『これが普通の恋愛』でないと、するならば――俺は何をもって普通だと言うつもりなのか。確かに蒼空と怜未には特別な事情がある。だが、だからこそ俺は『普通』に恋愛をしてみせなければ、ならないのでは?

 自分でも何を言っているのか理解していない。でも、その考えは正しい気がしていた。

「なあ――」

 俺は田口の背中をつつく。

「なんだよ」

 田口は、面倒そうな顔で俺を見た。

「ちょっと、気まずくて話ずらい時――お前なら、どうする?」

 そう訊かれた田口は、面食らった顔をしていたが――

「仕方ねえ。アドバイスしてやっか」

 ふっと笑って、そう言った。

「で――どんな状況なんだ」

「だぶん、今は話しかけても無視されると思う」

「お前、なにしたんだよ?」

「それは、聞かないでくれ……」

 ウーン――と、田口は暫し考えてから、

「そんな時は、イベント発動じゃね?」

「イベント?」

「ちょっとした事件的なさ――要は話をするきっかけになれば何でもいい訳だ」

「きっかけ……か」

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