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その恋を残して
第6章 怜未は、ここにいるよ
「ハイ――もう、いいよ」
「ん……ありがと」
左目の上と右の口元にガーゼを貼り付け、俺の治療は完了したらしい。怜未は使用した消毒液等を棚に戻していた。
すると、ふとその手が止まる。俺に背を向けたまま、こう言った。
「何で、あの時――怜未と言ったの?」
「あの時――?」
「『怜未に近づくな』――松名くん、そう言っていたよ」
「ああ……そうだった」
それは内田を殴りつけた瞬間に発した言葉だ。改めて言われると恥ずかしい気分だ。
「あの場合――蒼空と言うべきじゃない?」
徐に振り返った怜未は、怒ったように俺を見る。
「ゴメン。確かに迂闊だったな。これからは気をつけるよ」
今は『怜未』であっても、この学校にあっては常に『蒼空』でなくてはいけないのだ。その秘密を他の者に知られてはいけない。怜未は、そのことで俺を非難している――俺は、そう感じていた。
しかし――
「私、そういう意味で言ってるんじゃないよ」
怜未は苛立ちを滲ませながら、俺の認識を否定した。