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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
否、違う。何か変だぞ……。
これはまるで、初対面の挨拶である。昨日、クラスの一人一人が自己紹介した訳でもないから、俺の名前を知らないのは当然。だが、問題はそんなことではなかった。
昨日、彼女は俺を捉まえて何と言った? その部分が、まるっきり無視されているのである……。
「昨日のこと……なんだけど」
「はい――?」
それを問い正そうとする俺を、帆月はただ不思議そうに直視した。その大きな漆黒の瞳は、何の曇りも感じさせず、俺に真っ直ぐに捉えている。吸い込まれそうな綺麗な瞳。それは昨日、俺を嫌悪したものとは――まるで違って見えた。
「ゴメン……なんでもない」
帆月への疑問も逆告白も――俺は結局何も言い出せないまま……。
「教室まで一緒に行ってもいいですか? まだ、一人で行く自信がないんです」
そう言って微かに頬を赤らめた帆月と――
「別にいいけど……」
並んで教室に向かいながら、俺は激しく混乱していた。