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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
※ ※
「松名ぁ、よそ見するな!」
四限目の現国の授業中。このクラスの担任教師である木崎夏芽(きさきなつめ)は、ぶっきらぼうな口調で俺に注意を与えた。
木崎先生は一応女性ではあるが、何と言うべきか。どちらかと言うと男性的なイメージである。とにかく言葉遣いが荒いし、本人には絶対に言えないが、何とも女性らしい繊細さに欠けている。
まあ、外見は一応美人と言えるのかもだが……。年齢は頑なに公表しようとしない。一説によれば三十オーバーらしいので、独身女性にしてみれば、隠したくなる気持ちも理解はできなくもない。年齢を気にする辺りの心情が辛うじて、女性らしさを残していると言うべきであろうか?
「返事」
「はい。すいません」
ともかく、よそ見をしていたのは事実であったので、とりあえず素直に謝っておく。
「期末も近いんだから集中しろ。じゃあ、続き――」
俺への咎めを終え、授業が再開される。ホッと胸を撫で下ろしつつ、俺は形だけ教科書に目を向けた。申し訳ないのだが、この後も木崎先生の授業には集中はできそうもない。否、木崎先生の授業に限らず、今日は朝からずっとそんな感じだった。
その原因は、当然と言うのもなんだが、帆月蒼空にある。今、よそ見を注意されたのも、斜め前方の彼女の方を見ていたからに他ならない。
どうしてって? だって、今朝の彼女の態度は、俺を悩ませるのに十分過ぎるものだし……。だが、厳密に言えば、それは正しくないのかもしれない。
彼女の態度が理不尽と言うならば、問題なのはむしろ昨日の方なのだ。昨日の彼女が言ったことは一体、何であったのか? どう考えても、およそ初対面の相手に対する、振る舞いとは考え難い。
今日、俺は隙を見ては帆月を観察していた。もちろん、俺の中に生じた疑問の為であり、それ以外に他意はない。ともかく、印象としては帆月は至って普通。少し大人しい(学校に慣れていないせいもあろうが)可憐な美少女なのであった。
昨日、帆月と交わした会話は幻聴だったのか? 否、幻聴などと大袈裟なことでは無いにしろ、何か勘違いがあったのかもしれない。