この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
その恋を残して
第7章 眠り姫……か
※ ※
何とか木崎先生を言い包め、俺は誠二さんの運転する車に乗っていた。
先生もああ見えて、俺や蒼空のことを心配したらしい。去り際に「松名。何か困ったら言ってきな」と、そんな風に言ってくれたのだ。あれで、普段からもう少し女らしくしてればな――俺は感謝しつつも、些か残念な想いもしている。
そんなことは、ともかくとして。俺は黙って運転を続ける誠二さんの横顔を見やった。
車は特に目的もなく走っていた。少なくとも蒼空たちの家にも、誠二さんのクリニックにも向かってはいない。すると――
「キミから見たなら――」
前を見て運転をしながら、誠二さんは突如としてそんな風に話を切り出した。
「僕は大人で、しかも医者という立場もあって……世の中のことは、大抵わかっているように思ってるのだろうね」
「……?」
「だが、実際は多くのことを知らない。医者としても、まだまだ未熟者だ。蒼空のことにしても、果たして僕の見解が正しいのか。それだって自信を持っている訳ではないんだよ……」
さっき、俺が蒼空と怜未の状況を訊きかけた時、誠二さんは取り乱していた。それは、そんな想いからだったのだと、話を聞き俺はその一端を理解した気がしている。
そして立場上、怜未を『交代人格』としながらも、蒼空のことを本当に案じていることも……。
「すいません。俺、とにかく心配だったから」
「いや、僕も興奮してしまって悪かったね」
互いに自分の感情を優先させたことを詫びると、それから俺は訊ねた。
「それで……今、彼女は?」
誠二さんを前にして、蒼空と呼ぶべきか、怜未と呼ぶべきか――そんなことを迷いつつ、俺は自然と『彼女』という言葉を使っいる。
「沢渡さんから連絡を受け、僕が診察をしている。熱は大したことはないし、風邪の症状も認められない。それなのに……蒼空は目を覚ますことなく、眠り続けているんだ」
「目を……覚まさない?」
「ああ……しかも。沢渡さんの話によれば、昨夜、眠りについてからずっと寝ていることになる」