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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
「帆月蒼空を見てたのか?」
昼休みになった途端に、田口は俺にそう訊いた。嫌な奴――俺は心底、そう思う。
田口純一(たぐち じゅんいち)は俺の(一応)友人。友達が多くない俺にとっては、クラスの中で一番話す相手ではある。たまにこうして、見透かしたようなことを言ってくるので、そんな時は少し苦手に感じてしまう。
「違うよ」
動揺すると余計にツッコまれると予感し、俺はキッパリと嘘を言った。
「あ、帆月に男が言い寄っているぞ」
「!」
思わず田口の指差した先を見る俺。だが、そこには誰もいない。
「……」
バツが悪そうに黙る俺を見て、田口はニッと笑った。
「別にいいじゃん」
「何が……?」
「可愛い編入生を好きになっちゃう。別に普通ことだぞ」
「だから!」
机に手をつき、思わず立ち上がる俺。不意に出した大声に、周囲の視線が集まる。
「……好きとか、そんなんじゃないんだ」
俺はそっとイスに腰かけつつ、田口にだけ聴こえるように小声で言った。
「ホントに?」
「ああ、本当だよ」
「じゃあ、俺がコクってもいいのか?」
そう言われ、俺が田口をまじまじと見と、奴は薄らと笑みを浮かべている。
「勝手にしろよ」
「ハハ、冗談」
少し迷ったが、俺は真面目な顔で田口にこう訊いていた。
「お前から見て、帆月ってどう?」
「どうって?」
「何か少し変わってるとかさ」
田口は少し考えてから――
「別に。少し大人し目かなってくらいじゃね」
田口は割と人を良く観察する男である。その田口でも、帆月蒼空に対して何ら違和感を覚えてはいないようだった。
「そう――だよな」
「何かあったのか?」
「イヤ――特に何もない。ある訳ないだろ」
田口が怪訝そうな顔をしたのを見て、俺は誤魔化すように会話を終えた。