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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
「あの――松名くん」
そう呼ばれたのは、学校を引き上げる直前の昇降口。つまり、昨日と同じ場所。そして、話しかけて来たのも同じ。その声の主は、帆月蒼空だった。
「どうしたの?」
俺は努めて冷静に返事をしながら、その実、鼓動が倍程に早まってゆくのを感じていた。昨日の今日である。無理もないことだった。
「今、帰りですか?」
「そうだけど……」
「私、一緒に帰ってもいいですか?」
「えっ……?」
意外な申し出に、俺が言葉を詰まらせると――
「迷惑なら仕方ないのですが……」
帆月は俯き加減に、そう言う。
「そうじゃなくて……迎えが来るんじゃ? 車で……朝、俺見てたし……」
俺はみっともないと思うくらいに、狼狽えていた。
「ですから校門の所まで一緒に、と思ったのですが。ダメ……ですか?」
十センチくらい低い位置からの、自然な上目使い。
「じゃあ、行こう……か」
無下に断れる筈もなかった。
俺たちは校舎を出てから校門までは、ほんの五十メートルくらい。これは「一緒に帰る」の範疇に入れていいものか、俺は少し悩んだ。きっと、一分もかかるまい。
ここから見る限り、朝に帆月を乗せて来た車は見えない。せめて、車が到着するまでは一緒に待っていた方がいいのかな。俺はそんな風に、考えを巡らせる。
しかし、不思議だ。何故、帆月は俺に声をかけてきたのか? 朝は挨拶を交わしはしたが、別にそれ以降は話してはいない。だが、疑問に思うなら、やはり昨日か……。
『私を好きにならないで!』と言ったのは、この帆月蒼空。そのセリフを思い出した俺が、ギョッとして彼女を見ると「なに?」と言いそうな顔で、俺を見返していた。
「私って変……ですか?」
帆月は、ポツリとそう訊ねている。