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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……

    ※    ※


 俺たちは、美術室に移動した。三限目は美術の授業である。

 今日の課題は人物画。それぞれが二人組になって、互いの顔を描き合うというものだ。そんな訳で俺と田口は、自然の流れにより、互いの顔を描くはめになっていた。

「チッ――モデルが役不足過ぎて、創作意欲が湧いてこないぜ」

「それは、こっちのセリフだ」

「なんだとお」

 田口は、そう言うと、急に顎を突き出してしゃくれてみせる。

「オイ、ふざけんな」

「おではまじべだど……」

 悪乗りした田口は両手で顔を押しつぶし、更なる面白フェイスを作る。

「いいんだな。そのまま描くぞ」

「どうぞお」

 ふざけるのをやめる気配がない田口に、俺はムカついた。

「じゃあ、これでどうだ」

 剥きになった俺は、鼻の下を膨らませ、田口に負けぬ変顔となった。

「…………」

「…………」

 プッ――お互いの顔に耐えられず、俺たちは同時に吹き出す。

 ゴン――その時、俺と田口の頭に衝撃が加えられていた。

「お前等、真面目にやれ!」

 それは、美術教師・迫田の鉄拳制裁であった。

「はい……」

「すいません……」

 頭を押さえつつ、謝罪をする俺たち――。
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