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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……
それを、疑わしく見ていた迫田先生は、後ろにいた二人に向かいこう言った。
「悪いんだが、コイツらと組みを変わってやってくれ。馬鹿二人だと進みやしねえんだ」
それを聞いて、俺の心臓は、また脈打つ。それは――
「えー、描き始めてるのに」
そう不平を洩らした木田が原因ではない。それは、もう一人の方――
「わかりました」
そう答えて俺を見たのが帆月蒼空だったから。
「じゃあ俺、木田を描いてやるよ」
「もう、やり直しじゃん」
「そう言うなって。美人に描いてやるからさ」
木田をなだめつつ、田口が素早く行動したのは、変な気を回したものと思われ――
「では、松名くん。よろしくお願いします」
帆月が俺の前に座っていた。
そんな流れで期せずして帆月蒼空を描くことになった俺は、妙な緊張を覚えながら、それでも何とかスケッチブックに向かう。
そうしてようやく、集中し始めた頃。
「ヨーシ、それまで! 完成した者は提出。まだの者は明日までに描いてこいよ!」
迫田先生は、そう言って授業を締めた。
「……」
俺はまだ半分程しか描けていない絵を見つめる。絵は本来、得意な筈なのだが……。よく眺めていた後姿ではなく、正面に鎮座する帆月の方を正視することが、俺は殆どできなかった。
「松名くん。描けましたか?」
帆月は立ち上がり、俺の絵を覗こうとする。慌てた俺は、それを両手で隠し――
「まだ全然。帆月さんは?」
と、矛先を変える。
「私はもう諦めです。才能無いので、これで勘弁してください」
帆月は照れながら、それでもピラッと自分の絵を俺に見せる。
そこには、繊細なタッチで描かれた俺――だよな?
「イヤ――巧いよ。似ているのかは、自分じゃ判断できないけどね」
何か実物より五割増しくらいにしてもらってあるように思え、俺は恐縮する。