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その恋を残して
第4章 二人で一人、なのです
しかし、蒼空は何の反応も示さない。俺は言葉が届いているのかと不安になり、そっと顔を上げた。
すると、二メートル程先に進んだところに、俺に背を向けて立つその姿。そして、徐に振り向いた彼女は、木漏れ日のスポットライトを浴びる。
浮かび上がったような蒼空の姿は、異世界よりの使者のようで。俺は思わず目を奪われていた。
「――蒼空」
――と、何故か彼女は自分の名を口にする。
「えっ――?」
俺が呆然とするのを見て、蒼空はこう続ける。
「松名くんは、私たちのことを知ったんですよね?」
「ああ……昨日、沢渡さんから聞いて」
「じゃあ今は……私の時は蒼空、と。そう呼んでください」
「あ、うん……じゃあ、蒼空……さん?」
「『さん』はいりません」
「でも、いきなり呼び捨ては、ハードルが高いなあ……」
「ダメですよ。そう呼ばないのなら、許してはあげませんから」
そう言ってわざとらしくむくれてみせる、蒼空。
「……蒼空」
その顔を見つめ、すぐに視線を逸らし、俺は思い切り照れながら、その名を呼ぶ。
「ハイ!」
とても元気な返事とその時の笑顔が、この前のことを許したのだと、俺は思った。