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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ
バイト終が終わると俺は、普段の帰路とは違う道を歩いていた。そして、目的の場所に到着する。『帆月クリニック』――その前に立つ。
もう夜の八時を回っている。自動ドアの向こうは、まだ明かりは灯ってはいたが、診療時間は過ぎていた。
まあ、それは想定していたこと。別に俺が受診しようという訳ではないので、それは関係がない。では、何の目的でと問われれば、その答えはない。はっきり言って、俺がここに来た処で、どうにもならないだろう。
只、俺は――怜未がこの診療所を訪れていたことと、そこの名が『帆月』を冠していることが、凄く気になってしまっていた。
何となく中を覗いていると、受付の隣のドアが開き誰かが出て来るのが見えた。気まずく思った俺は、咄嗟に背を向ける。
ウィーン――と、自動ドアが開く音がしたのに続き――
「悪いけど、今日は終わりなんだ」
と、俺はそう声をかけられていた。
俺が振り返ると――長身で白衣を着ていたその男は、ニッコリと感じのいい笑顔で俺を見ていた。まだ若く、そしてかなりのイケメンである。
「あ、イエ……そういう訳じゃ……」
「受診に来た訳じゃないってこと?」
「……はい」
「フーン」
「……」
その医師らしき男に見つめられ、俺はバツが悪そうに顔を背ける。
すると――