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秘密の恋人
第19章 波乱ヲ呼ブ手紙
「貴方が小学校に入って、外に出たいと思ってパートで働き始めた。
スーパーのレジ打ちの仕事をしていて、そこによく来るお客さんと仲良くなった。独り暮らしの男性で、いつもお惣菜やお弁当を買って行く人だった。夜もそのスーパーでご飯を買うから、何時頃に値引きされるとか、このお惣菜が美味しいとか、そんな何気ない会話から、少しずつ 他の話もするようになって、そのうちに、誘われるようになって。お父さんと恋人でいた期間もそれほど長くはなかったし、出産後はすれ違いの生活だったから、その疑似恋愛みたいな関係が楽しかった。数年かけて、深みにはまって行って。貴方が5年生の時のアレがあった頃には、もう抜けられなくなっていた。貴方に何も言わず家を出たのは、彼との子供を妊娠したから。それを、小学生の貴方に上手く説明する自信がなくて逃げたの。」

隆行はひとつ息を吐き、

「今の話を聞く限りでは、同情すべき点もあるけど。それでもそれは言い訳だとも思う。」

冷静な断罪に、桜子が力なく頷いた。

「もちろん、言い訳よ。若くして親になってもきちんと家事や子育てをこなしている人もいるんだもの。それができなかったのは、私の弱さと幼さが一番。二番目は…お父さんも私も、不器用だった。お互いを思いやることができなくて、自分だけが大変だとお互いが思い込んでいた、っていうところかしらね…」

心中で同意した。菜摘と出会って、ようやく被害者意識から抜け出せた私と同じく、桜子も今のご主人と出会って冷静に分析できるようになったのかもしれない。

「…で、そのヒトと再婚したの?」

桜子はかぶりを降り、

「妊娠と離婚を告げたらすぐに離れて行っちゃった…きっと、彼にとってはただの遊びだったのね…今の主人は、その後働いてたスナックのお客さん。奥様を亡くされて、5歳と2歳の子供がいたの。今は高校一年生と中学一年生よ。」

「今…幸せ…?」

桜子は大きく目を見開いて、ぎゅっと目を閉じた。

「…貴方たちを裏切った私が、幸せになんてなっちゃいけないっていう思いもあるの。でも、今は幸せ。勝手かもしれないけど、貴方たちにできなかった分も、今の家族を精一杯大切にしていく事が、私にできる償いだとも思ってる。」
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