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秘密の恋人
第10章 焦燥
飲み会の店に向かう道すがら、自分に関係のない大阪駅開発や街の作り方について、ぼんやりと考えを巡らせていた時に、視界の端に見覚えのある顔が入った。
レストラン街の一角。
席が空くのを待つ為のウェイティングスペースの椅子に腰掛ける菜摘と、見知らぬ男。
私は店の前を横切っただけで、しかも1人ではないから恐らく気付かれてはいまい。
1列に並んだ数脚の椅子に横並びに腰掛けていて、奥に男、手前に菜摘が座し、2人顔を見合わせて楽しげに話している。
私から見えたのは、菜摘の身体の側面と後頭部だったが、洋服も見覚えのあるものだったし、私が菜摘を見間違える訳がない。
そして。
菜摘の隣で楽しげに笑う若い男。
社内では見かけない顔だった。
歳の頃は恐らく20代半ば、から、菜摘と同年代くらい。
短い髪を固めずに自然に撫で付けた、今時の髪型に、細身のスーツ。
一瞬のうちにそこまでチェック出来てしまう己の目に我ながら感心する程だ。
傍目には、似合いのカップルだった。
…少なくとも、私と彼女よりは。