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秘密の恋人
第11章 虚勢
未だかつて、こんなに決断に困った事はあっただろうか…

昔、妻と結婚を決めた時も、離婚を決めた時も、これ程は悩まなかった。

私が、ここで、離れたくないと、菜摘に側にいて欲しいと、臆面もなく本音を曝すことができる男なら、私はとうの昔に彼女にプロポーズしていただろう。

でも、そうしないのが、彼女の為だと思うから、私は本音をひた隠してきたのだ。

その私に、貴方次第だなどと、こんな酷な問いはない。

「…その、誘いを受けた気になる男というのは…先週の金曜、梅田で食事をしていた男?」

「義隆さん…見たの?」

私はこくりと頷いた。

「会議終わりの飲み会に向かう途中ね。お互い1人ではないし声をかける雰囲気でもなかったから素通りしたけど。優しそうな男だなと思ったよ。私より君に似合いだと。」

「…それが、義隆さんの、答え?私に彼の元へ行けと、そう言いたいの?」

私は再び、頷いた。

「君にとっての最良の選択は、彼のような若い男と共にあることだ。そしてそれが、私の望む選択でもある。」
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