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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
「このところ、お姿を見せては下さりませんでしたのね。もう私のことなど、お忘れになったのかと思っておりました」
 美耶子の歯に衣を着せぬ物言いに、兼家も鼻白んだ顔だ。
「うん、まあ、内裏(うち) での仕事が色々と立て込んでおってな。心の内ではどうしておるかといつもそなたのことばかり考えておったのだが、いかにせん宮仕えの身の哀しさ、どうにもならぬ。このときばかりは我が身が二つあれば良いものをと口惜しう思うたぞ」
―よくもまあ、ぬけぬけとこれだけ喋れること。心にもないことをぺらぺらと。
 美耶子は込み上げてくる怒りを抑えきれない。兼家の妻となったばかりの頃は、この耳に心地よい甘い言葉の数々が兼家の真からの気持ちなのだと信じて疑ったこともなかった。だが、今の美耶子はあの頃とは違う。
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