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第10章 第三話　【流星】　一

　穏やかな兼家が大きな声を出すことなぞ滅多にない。相当怒っているに違いなかったが、美耶子は頓着しなかった。
「殿がきれいに別れて下されば、私は尼にでもなって、ひっそりと生きまする」
　ひと息に断じると、これ以上兼家の顔を見たくもないという意思表示のようにあらぬ方を向いた。
　対する兼家はまさに怒り心頭に発しているといった態(てい)だ。その顔は赤色を通り越してはや蒼くなっている。
「折角久方ぶりに来たというのに、相変わらず可愛げのない嫌みばかり言う女だ」
　声はわなないてさえいた。
「ええ、私は町小路の方のように可愛らしく殿にお縋りすることのできぬ女です。このような詰まらぬ女だと端(はな)からご存じであられたのではございませんか」
　美耶子は兼家の方を見ないで言った。最早、どうにでもなれといった心境だ。