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紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 一
「もう良い、帰る」
兼家は乾いた声で言い立ち上がると、足音も荒く袴の裾を蹴立てるようにして大股で歩いていった。
部屋を出る間際、兼家がつと振り向いた。
まだ何か言い足りないことでもあるのかと、美耶子は身構えた。だが、兼家の表情は予想に反して、とても哀しげに見えた。
「時姫にまもなく子が生まれるのは存じておろう。今回の出産はもしや難産になるやもしれぬと薬師が申しておるのよ。そうなれば、母子共に生命の保証はできぬともな。それゆえ、心細がるあれの傍を離れられなかったというのが真相なのだ。さりとて、時姫の話をそなたの前でするのはあまりにも無粋なことと下手な言い訳をしたのがかえってまずかったようだな」
「―」
美耶子は唇を噛んでうつむいた。
兼家は乾いた声で言い立ち上がると、足音も荒く袴の裾を蹴立てるようにして大股で歩いていった。
部屋を出る間際、兼家がつと振り向いた。
まだ何か言い足りないことでもあるのかと、美耶子は身構えた。だが、兼家の表情は予想に反して、とても哀しげに見えた。
「時姫にまもなく子が生まれるのは存じておろう。今回の出産はもしや難産になるやもしれぬと薬師が申しておるのよ。そうなれば、母子共に生命の保証はできぬともな。それゆえ、心細がるあれの傍を離れられなかったというのが真相なのだ。さりとて、時姫の話をそなたの前でするのはあまりにも無粋なことと下手な言い訳をしたのがかえってまずかったようだな」
「―」
美耶子は唇を噛んでうつむいた。