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紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月 一
 だが、父は口ではうつけだと言いながらも、けして信長を真からの馬鹿者だとは思っていない。嫁ぐ前、道三はまた信長についてこうも言っていた。
―帰蝶、あれはうつけの知恵よ。あやつは、とんでもない役者だ。あれほどのうつけぶりを見せておきながら、その実、腹ではこの先いかにするべきか、ちゃんと心得ておるわ。己れをうつけじゃと皆にとことん信じ込ませ油断させておきながら、自分の味方になるのは誰か、口ではうまいことばかりを言いながら陰で小細工を弄しておるのは誰かと見極めておるのだ。あのうつけぶりに騙されてはならぬ。織田の小倅は末恐ろしき男、敵に回せば、こちらが逆に滅ぼされるぞ。あの男を根っからのうつけじゃと思い込んだ者の方こそが本当の大うつけということになるかの。
 だからこそ、「マムシ」と呼ばれて畏怖される道三ほどの武将が愛娘の帰蝶をうつけと評判の信長にくれてやる気にもなったのだ。
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