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紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月 一
道三は信長を侮れない若僧だと思っている。
帰蝶は小さな吐息を洩らすと、立ち上がった。庭に面した障子戸を開けると、廊下に佇んだ。水無月の梅雨の合間の宵は、雨もなく紺碧の夜空がひろがっている。雲間に丸い月が頼りなげに浮かんでいた。月明かりを浴びて、庭の紫陽花がひっそりと夜陰に浮かび上がっている。蒼白い花が月光に冴え冴えと濡れていた。
帰蝶が宵闇の中で淡く光る紫陽花を見つめていた時、突如として背後から声をかけられた。
「どうした、マムシの姫でも花を見て物想うこともあるのか」
半ば揶揄するような口調は、紛れもないあのうつけのものだ。帰蝶はゆっくりと振り向いた。
帰蝶は小さな吐息を洩らすと、立ち上がった。庭に面した障子戸を開けると、廊下に佇んだ。水無月の梅雨の合間の宵は、雨もなく紺碧の夜空がひろがっている。雲間に丸い月が頼りなげに浮かんでいた。月明かりを浴びて、庭の紫陽花がひっそりと夜陰に浮かび上がっている。蒼白い花が月光に冴え冴えと濡れていた。
帰蝶が宵闇の中で淡く光る紫陽花を見つめていた時、突如として背後から声をかけられた。
「どうした、マムシの姫でも花を見て物想うこともあるのか」
半ば揶揄するような口調は、紛れもないあのうつけのものだ。帰蝶はゆっくりと振り向いた。