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紅蓮の月~ゆめや~
第3章 紅蓮の月 二
せめて枕辺に刀なりとも置いてあれば、帰蝶も心を決め易かったが、刀どころか咄嗟の折に信長が身を守れるようなものは寝所のどこを探しても見当たらない。口ではああ言っていたものの、帰蝶が真に自分の生命を狙ううと信長は考えてもいない様子だった。
思いに沈む帰蝶はぼんやりと部屋の中を見回していた。と、小さな床の間に掛け軸がかけられていた。墨絵で描かれた蓮の葉の上に蛙がちょこんと乗っている。確か父道三が手慰みに描いたものを嫁ぐ際に持ってきたのだ。素人が描いたにはなかなかの出来映えのそれを、道三は婿殿への手土産にせよと半ば冗談半ば本気で帰蝶に言い渡し、帰蝶は律儀に父の命を守った。
それにしても、信長があの掛け軸をわざわざ飾らせておくほど大切にしていたとは意外だった。墨絵の蛙は間近で眺めていたら、今にもピョンとはねて、こちらに向かって飛んできそうな気がする。
思いに沈む帰蝶はぼんやりと部屋の中を見回していた。と、小さな床の間に掛け軸がかけられていた。墨絵で描かれた蓮の葉の上に蛙がちょこんと乗っている。確か父道三が手慰みに描いたものを嫁ぐ際に持ってきたのだ。素人が描いたにはなかなかの出来映えのそれを、道三は婿殿への手土産にせよと半ば冗談半ば本気で帰蝶に言い渡し、帰蝶は律儀に父の命を守った。
それにしても、信長があの掛け軸をわざわざ飾らせておくほど大切にしていたとは意外だった。墨絵の蛙は間近で眺めていたら、今にもピョンとはねて、こちらに向かって飛んできそうな気がする。