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紅蓮の月~ゆめや~
第3章 紅蓮の月 二
帰蝶は深呼吸した。我が身は織田家の者ではない。信長の妻である前に、斉藤家の姫であり、マムシと畏怖される道三の娘だ。
最早、躊躇いは許されなかった。帰蝶は懐剣を両手に持ち、高く頭上へと振りかざした。渾身の力を指先に集中させ、ひと息に懐剣を信長の胸許へと落とす。幼いときから、ひと息で狙う獲物の心ノ臓を仕留める術(すべ)は教え込まれている。その気になれば、まず間違いなく一撃で息の根を止めることができるはずだ。
せめて苦痛のないように、ひと思いに殺したかった。帰蝶の懐剣が今にも眠っている信長の心臓を突こうとしたその刹那のことだ。
最早、躊躇いは許されなかった。帰蝶は懐剣を両手に持ち、高く頭上へと振りかざした。渾身の力を指先に集中させ、ひと息に懐剣を信長の胸許へと落とす。幼いときから、ひと息で狙う獲物の心ノ臓を仕留める術(すべ)は教え込まれている。その気になれば、まず間違いなく一撃で息の根を止めることができるはずだ。
せめて苦痛のないように、ひと思いに殺したかった。帰蝶の懐剣が今にも眠っている信長の心臓を突こうとしたその刹那のことだ。