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紅蓮の月~ゆめや~
第3章 紅蓮の月 二
帰蝶は無意識の中に寝衣の懐を上から押さえた。道三から手渡されたひとふりの懐剣がそっと忍ばせてある。
―信長を殺せ。
再び父の言葉がこだまする。帰蝶はその声に導かれるように、懐に手を差し入れた。取り出した懐剣の刃を鞘から抜く。眼の前にかざすと、燭台の蝋燭の光を受け、刀身が鈍い輝きを放った。
帰蝶の瞼に何故かこの時、紅い月が浮かんだ。人の生き血を吸い尽くしたかのように、毒々しいほどに紅い月、城や大勢の人の生命をことごとく焼き尽くす紅蓮の焔のような月。この乱世にいかほどの人が無念の想いを抱(いだ)いて、燃え盛る焔の中に消え果てたことだろう。人の生命を呑み込んで妖しく美しく燃え盛る焔は、文字どおりこの世のすべてを焼き尽くす劫火に相違なかった。
―信長を殺せ。
再び父の言葉がこだまする。帰蝶はその声に導かれるように、懐に手を差し入れた。取り出した懐剣の刃を鞘から抜く。眼の前にかざすと、燭台の蝋燭の光を受け、刀身が鈍い輝きを放った。
帰蝶の瞼に何故かこの時、紅い月が浮かんだ。人の生き血を吸い尽くしたかのように、毒々しいほどに紅い月、城や大勢の人の生命をことごとく焼き尽くす紅蓮の焔のような月。この乱世にいかほどの人が無念の想いを抱(いだ)いて、燃え盛る焔の中に消え果てたことだろう。人の生命を呑み込んで妖しく美しく燃え盛る焔は、文字どおりこの世のすべてを焼き尽くす劫火に相違なかった。