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紅蓮の月~ゆめや~
第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ
主の女性同様、全く人目に立たない不思議な店なのだ。
―帰らなきゃ。
花凛は思った。一刻も早く、ここから出なくてはならない。
と、女主人と眼が合った。女主人は相も変わらず、穏やかな笑みを浮かべたまま、花凛を見ている。彼女の背後には大きな柱時計があり、カチコチと音を立てている。降りしきる雨音に包まれたこの店の中だけが周囲の現実から遠く隔絶された別世界のようでもある。雨音だけに塗り込められた静寂の中、柱時計が静かに刻(とき)をきざむ音だけが妙に耳についた。
「それは、自分が行きたいと思っている時代に行けるということですか」
少しでも早くここから出なければと思う一方で、花凛は女主人にそんな質問を投げかけていた。赤色の打ち掛けは依然として花凛の肩にふわりと掛けられたままだ。
―帰らなきゃ。
花凛は思った。一刻も早く、ここから出なくてはならない。
と、女主人と眼が合った。女主人は相も変わらず、穏やかな笑みを浮かべたまま、花凛を見ている。彼女の背後には大きな柱時計があり、カチコチと音を立てている。降りしきる雨音に包まれたこの店の中だけが周囲の現実から遠く隔絶された別世界のようでもある。雨音だけに塗り込められた静寂の中、柱時計が静かに刻(とき)をきざむ音だけが妙に耳についた。
「それは、自分が行きたいと思っている時代に行けるということですか」
少しでも早くここから出なければと思う一方で、花凛は女主人にそんな質問を投げかけていた。赤色の打ち掛けは依然として花凛の肩にふわりと掛けられたままだ。