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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
―紅蓮の花―

     一

 雨が、降っていた。
 軒を打つ雨の音にじっと耳を傾けていると、あたかも義経と二人きりでこの小さな館(やかた)に閉じ込められているような錯覚に囚われてしまう。あたかもこの世に二人きりだけ―、そんな想いがしてならない。
 だが、もし、それが真のことであれば、どんなにか幸せかしれないのにと、凛子(りんこ)は思う。 愛しい男と二人だけでこのまま止まぬ雨に降り込められて、ずっと刻(とき)を過ごせたらと願わずにはおれない。
 が、凛子の良人義経を取り巻く今の状況はそんな甘い夢想を許せぬ切迫したものだ。義経の置かれた立場は想像以上に厳しい。
 源義経は「鎌倉殿」と呼ばれる源頼朝の腹違いの弟になる。頼朝は現在、専横をふるい栄華を極めた平氏一族を滅ぼし、まさに武家の棟梁として諸国に君臨しようとしていた。
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