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紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 一
 生命を狙われてまでなお、義経は兄を慕っている。それは恐らく、実の親に殺されそうになってもまだ子が親を信ずる心にも似ているだろう。凛子は義経の傍近くにあって、彼の心が手に取るように判った。
 京の都にいた頃、義経には静という愛人がいたという。静は当代随一の舞の名手と云われる白拍子で、楚々とした美貌の女性だと評判だ。また、頼朝から命じられて迎えた妻、河越太郎重頼の娘もいた。義経の寵愛も厚かった静は鶴ヶ丘八幡宮で義経を恋い慕う唄を謳いながら舞ったことで頼朝を激怒させ、頼朝の妻政子のとりなしで何とか事なきを得た。その後、静は義経の子まで生んでいるのだ。子どもは男であったため、殺され由比ヶ浜に棄てられたというが、少なくとも凛子が遠く離れた平泉で一人義経を待ち続けている最中、義経は他の女性を愛していた。
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